好きになっても、いいですか?

「あ……っ」


麻子が先に我に返って、純一を軽く押しやり距離を取る。

視線を落とした先に自分の荷物を見つけると、純一をすり抜けるようにして鞄を肩に掛け、純一の目を見ずに頭を下げた。


「お、お世話になりました!申し訳ありません!失礼します」


いつものように、綺麗な姿勢で髪を靡かせて玄関へと足早に去っていく麻子を、純一はその場から動けずに見ていただけ。


ガチャン、と、麻子の持ってきたキーでやっと開いた扉が、閉まる音がした。

純一は自分の手に残った麻子の涙、手、髪の感触と匂いと――――唇。

それらの余韻に浸りながら、まだしばらく動けずにいた。


「なんで、俺は――」


ふと、麻子がさっきまで横になっていたベッドに光るものを見つける。
純一はやっと動いて、それを手に取った。


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