好きになっても、いいですか?
「――ああ。失礼致しました」
敦志が気付いて麻子の腕を引き、一礼すると秘書室へと戻された。
「早乙女さん……?」
「……私達がいたら、話がしにくそうだったので」
「あ……なるほど」
「でもまさか、城崎のお嬢さんが出向いていらっしゃるとは――」
なんでも知っているような敦志でも、今回のことは驚いたようだ。
麻子はそんな敦志の顔を見てふと思ったことを口にした。
「仕事について、とかの雰囲気ではなかったですよね?もしかして――」
「……城崎雪乃さんは、恐らく婚約者かと」
「婚約者……やっぱり。でも、早乙女さんが知らないなんて――」
「まぁ、お父上と内密な縁談なのかもしれません」
大体そういう想像は出来るけれど、現実に政略結婚のような婚約者がいるなんて思わなかった。
ただ、あんな風に慕ってくるところを見ると、2人はまんざらでもないのだろう。そんなことを麻子は一人考えていた。
(だけど、だったら昨日のアレは――)
胸のあたりが締め付けられる感覚。
しかし麻子は、それを気にも留めずに仕事を始めた。