好きになっても、いいですか?
「残念ね。自分は、社長の特別だと思ってらしたんでしょう?」
突然、美月の口調が変わった。
振り返って見てみると、表情もあの可愛らしい顔ではなく、ひどく影のある顔に見える。
しかし麻子にとって、こういうことは、正直昔から慣れているので動じない。
「いえ。特別だと思ったことも、なりたいと思ったこともありませんから。そういう負け惜しみは私なんかよりも、“婚約者”の方に仰った方がよろしいかと」
つらっと麻子が言うと、美月の顔は見る見るうちに赤く歪み、そして唇を噛みしめていた。
「もしも、社長に迫ったりなんかしたなら、訴えられるわよ。気をつけなさい!」
(はぁ……誰が迫るって?)
美月の的の得ない捨て台詞を聞いて、呆れた視線を向る。それでも麻子は、そんな美月に一礼して、第一秘書室へと戻って行った。