好きになっても、いいですか?
目の前に立っているのは清掃のおじさん。
色の褪せた青い作業着を着て、ほうきとちりとりを持ち、麻子の顔を見て笑う。
「お嬢ちゃん、今日はスーツかい?」
「……あ!おじさん?!」
瞬時のことで、さすがの麻子もすぐには記憶に結び付かなかった。が、ニコニコと笑顔を向ける、優しい白髪の顔を確認してわかった。
「元気ですか?私、実は異動しちゃいまして」
「ああ!どおりで備品室で会わなくなったと思った!」
麻子は庶務課に居たときに、頻繁に蛍光灯やらガムテープやら、と色々な物を取りに備品室へと出向いていた。
そこに、麻子と同じく、よく出入りしていたのが目の前の男性である。
「でもお嬢ちゃん、制服もよかったけど、スーツもばっちしだな!」
ははは、と笑うその声を懐かしみ、麻子も笑顔を零した。