好きになっても、いいですか?
ばたばたと去っていく先輩を2人で見送った後、麻子が溜め息混じりで口を開いた。
「ごめんなさい……。後先考えずに出しゃばっちゃった……。明日から、あなたがまた、大変な思いをするのにね」
「……いいえ。ありがとう、芹沢さん」
「?私の名前……」
「芹沢さんて、同期の中でひときわ目立つもの。名前くらい知ってる」
麻子よりも15センチくらい小さい彼女は、にこりと笑って見上げるとそう言った。
「あ……ごめんなさい。私、名前まで知らなくて……」
「私、矢野です。代わりにガツンと言ってくれてすっきりした」
「いつも、こんななの?」
「――わりと。でも、上司はいい人ばかりだから」
矢野は、手にある原稿を目を細めながら見て呟いた。
「矢野さん。何か急用があるんでしょう?」
「えっ……」
「貸して。これくらいなら課が違ったって出来るから」
麻子は矢野の原稿をするりと抜き取り、コピー機へと歩いて行った。