好きになっても、いいですか?
「どうぞ」
「失礼します」
「ああ、芹沢さん」
初めて入る常務室と言う部屋は、社長室よりも二回りくらい小さめの部屋だった。
そのせいなのか、デスクに向かっている中川との距離が、ドアの前に立っているのにも関わらず近く感じてしまう。
「あの、資料を……」
「ああ。これなんだけど」
中川は引き出しを開けて、1、2センチの厚さの資料を麻子に差し出した。
麻子は目の前のそれに手を伸ばすように近付く。
その資料に手が触れた瞬間に、使命が終わる、と安堵する。
「!!?」
しかし、麻子は驚きで一度手にした資料を離し、デスクの上にバサッと音をたてて落としてしまう。
麻子の視線は自分の伸ばした手首……を掴む、中川の手だ。
慌てて中川の顔に視線を移した。
中川は何ら変わらない顔で、麻子の手を離さずに静かに椅子から立つと、デスク前に移動してきた。
「じょ、常務」
「芹沢……麻子チャン。まさか、こういうのが好きだとはね」
「は……?」
「まぁ、おれは大歓迎だけど」