好きになっても、いいですか?
(芹沢さん、資料を受け取るだけにしては、時間がかかってるような……)
秘書室で、スケジュール管理と確認をしていた敦志が時計に目をやり、ふと麻子が戻らないことに疑問を抱く。
そしてすっと席を立つと、迷わずに純一の居る部屋にノックし、入室する。
「社長。ほんの数分、席を外します」
「なんだ、堂々とサボり宣言か?」
「……」
「……冗談だ」
敦志が純一の冗談を聞き流して廊下に出た。
そこで敦志はあることを思い出す。
(――もしかして、また誰かを手助けしているだけかも)
敦志が立ち止まり、引き返して秘書室でもう少し待とうか考えていた時だった。
反対側の通路から足音が聞こえてきた。敦志はなぜだか息を潜めて、その足音に集中した。
すると、その足音の中、小さな声ではあったがある言葉に耳を奪われた。
「芹沢麻子……いい気味」