好きになっても、いいですか?
(――『いい気味』?この声は……)
廊下は一周ぐるりと回れるような形になっていて、真ん中にはエレベーターと階段がある。
その声のした方へ、敦志は気づかれないように向かって行く。そしてエレベーターの曲がり角に身を隠して、その人物を確認する。
かなり歩き進めていたが、その人物は思った通り、女性であるということはすぐにわかった。
背丈、服装、そして決定打は髪型。
緩いウェーブを揺らして歩く後ろ姿は、間違いなく相川美月。
「相川さん…………中川、常務――――!!」
頭の回転が速い敦志は、エレベーターではなく階段を飛ぶように駆け下りる。
さっきの常務専属秘書である美月の独り言が聞き間違えでないのならば、今、常務室へ資料を取りに行っている麻子の身が危ない――。