好きになっても、いいですか?
***

『――――中川常務』
『なんだ?』


夕日が差し込む常務室で、いつものように美月はデスクよりも奥に立つ。
そのすぐ手の届く場所で、中川に甘い声を出していた。


『新しく来ました秘書、ご存知ですか?』
『ああ。あの噂の社長付きになった子か』


中川は手を伸ばして美月の手を掴むと、彼女を軽く引き寄せる。
それに対して美月は、何も抵抗することなく、されるがまま中川の足の間へと滑りこむ。


『彼女……“こういうこと”が結構好きなようですよ?』
『……悪い子だね。そうやって、後輩を売るのか?』
『そんなこと言って、常務もまんざらではないでしょう?それに……んっ……』


2人の影が一つになって、室内は一瞬吐息のみが聞こえる。


『……おれ達は“恋人同士なわけではない”――からか』
『中川常務の恋人になんかなったら、何人の女を敵に回すのかわかりませんから』
『ふっ。社長秘書の、芹沢さんね――――……』


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