好きになっても、いいですか?
「……セナフーズ?」
麻子が、本当に小さく言った言葉。けれど、庶務課は静まり返っていたために、当然2人にも聞こえていて、すぐに振り返り立ち止まった。
「もしかして……芹沢さん。心当たりが?」
敦志が笑顔で期待を寄せる。
純一は、一歩前に出た敦志とその奥に未だ立っている麻子を見た。
「『御蔭様で来る9月30日に創立30周年を迎えることとなりました。
これもひとえに皆様方のご支援の賜と深謝申し上げます。』」
いきなり書式を話しだす麻子を、純一も敦志もただ呆気にとられて見ていた。
「『創立30周年記念パーティーを催したく存じます。ぜひともご来臨の栄を賜りたく、謹んでご案内申し上げます。平成2×年8月吉日――――セナフーズ株式会社、代表取締役社長 瀬名一彦』」
目を閉じている麻子に、純一が動揺したように声を震わせて言った。
「――――もしかして、記憶してるのか?」