好きになっても、いいですか?

「――中川常務」


メガネが光を反射させて、敦志の目が見えない。

敦志は口を動かしながら、麻子を優しく起こしてあげると、肩を抱きながら自分のもとに引き寄せた。


「資料を渡すのに、芹沢さんをデスクに寝かせるのは、どういった理由です?」
「――――いや……それは……」
「次に、彼女に指一本でも触れたのなら――……」


角度が変わった位置から見えた敦志の目は、今までに見たことのないくらい鋭く、突き刺さるような視線。

それに捕えられた中川は黙って両手を挙げ、“降参”というようなポーズをとると、その場をやり過ごした。


「――彼女次第で、あなたの処分は決まりますから。覚えておいて下さいね」


敦志はそう言い残すと、乱雑なデスクの上から資料を乱暴に拾い上げ、麻子と一緒に退室した。


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