好きになっても、いいですか?
麻子は、後ろから抱きしめられていることに戸惑いながらも、その腕を振りほどけずにいた。
「――本当にすみません」
悲痛な声が、耳の上から聞こえてきた。
弱っているときの誰かの温もりは、つい甘えてしまいそうになる。
しかし麻子は、そんな敦志に冷静に答えた。
「早乙女さん、大丈夫ですから。ありがとうございます」
「……すみません」
ゆっくりと回された腕が緩んで解放されると、麻子は自力で立ちあがってスカートを手ではらう。
敦志はそんな麻子の後ろ姿を、ただ見つめるしか出来なかった。
少しずり落ちたメガネを左手の中指で押し上げると、いつもの敦志の顔に戻り、麻子に声を掛けた。
「さぁ、戻りましょうか」