好きになっても、いいですか?
おそらく、中川は暫く大人しくしているだろう。
敦志自身には権力はなく、立場で言えば中川の方が上にあたりそうなものだが、敦志は社長の一番の傍にいる秘書だ。
敦志と純一の血縁関係なくしても、下手に手出し出来ない。
それはもう終わったこととして……と、麻子が次に頭をかすめるのは純一のことだった。
昨日の一件から、通常通りに振舞っているつもりだが、やはりどこかで意識をしてしまっている自分がいる。
前まではただの冷酷な、自分勝手なお殿様のようにしか見ていなかったが、父の件から少しずつ印象が変わりつつある。
父から聞いた話だけだが、敦志が言っていた、“純一を変えたい”という話も正直気になるところだ。
そして――。
「城崎、雪乃さん……か」
婚約者だという雪乃。
それが本当ならば、麻子にとって昨日のことは、今すぐに消し去りたい過去だった。