好きになっても、いいですか?


「こんな早くに申し訳ありません」


麻子がまだアパートにいたころ、一人の来客が父・克己の元を訪れていた。


「ああ、いや。構いません。私もその後の娘の様子も知りたいですから……社長から見て、の麻子を」


花束を手にして、ベッドの脇に立っていたのはスーツ姿ではない純一だった。


「そういう私服の姿を見ると、ただの青年なのになぁ……あ。“ただの”とは失言でした」
「いえ……。スーツだと、いつも実年齢よりかなり上に見られて、どうしたものかと自分でも思うことがあります」


和やかな雰囲気のまま、純一が克己に差し出された椅子に腰を掛けて視線の高さを合わせた。


「藤堂さん。この度は御迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ない。けれど、感謝もしております。どうもありがとうございます」


克己が急にかしこまって頭を下げた。


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