好きになっても、いいですか?

「いえ、頭を上げてください。今回のことは、僕は少しだけ力を貸しただけのことで……。全ては芹……麻子さんの力です」


純一はそう言うと、克己は少しほっとしたように表情を緩めて頭を上げた。


「自分も、本当は、麻子にこんなふうに迷惑掛けてまで……って思ったりするんですがね」
「――それはどうでしょうか」
「え?」
「仮に迷惑だとしても、彼女はそれを掛けられたくて、頼って欲しくてあんなふうに真っ直ぐと生きている気がします」


純一は、顔の向きを変えて窓の外を仰ぐようにしながら、独り言のように呟いた。
克己はそんな純一を見て、何か以前とは違った雰囲気をどこかで感じていた。


「いや……そうなら、わたしは幸せ者ですね」
「……」


照れながら頭を掻く克己を見て、純一は心底羨ましく思う。

自分にはないものを、この親子は持っている。
例え、母はこの世に存在しなくても、確かに彼らの中には生きているのだから。



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