好きになっても、いいですか?
「麻子ちゃんっ」
「芹沢くん!」
予期せぬ来客が去った庶務課では、未だにその来客が多忙を極める社長だったことに対しての興奮が冷めない。
麻子を除いて――。
「すっ凄いじゃない!社長がっ……直々に!」
「ワタシも驚きました!」
「……偶然ですよ。偶然、さっき蛍光灯変えた時にぶつかってしまって」
やっと椅子に腰を掛けた麻子に、泰恵と鈴木が群がるように食い付いてきた。
(二人共、何をそんなに興奮してるんだろう)
麻子はそんな疑問しか浮かばないでいた。しかし、“多忙の社長に会えた”という、言わば芸能人に会えた喜びみたいなものかと解釈をして、その話題を終わらせようとする。
「課長、泰恵さん。お昼休み終わっちゃいますよ」
麻子の一言で二人は時計に目をやると、慌てて自席に戻り、お弁当をかきこむ。
そして数分後に、何も知らない川上も戻り、いつもと同じように午後の就業時間を迎えた。