好きになっても、いいですか?
「彼は本当に傷つき、寂しい人生を送ってきた。大人になってそういうことは隠せているかもしれないが、オレには全部が全部隠し切れてるわけじゃない」
ハンドルを握り、真っ直ぐと前を見ながら敦志は静かに話し始め、それを麻子は窓を閉めて黙って聞いた。
「彼の母はあまりいい育ちじゃなくてね。いや、育ちというか人間性か。まあ、その彼の母の妹が、オレの母親でもあるんだけど」
そういえば敦志と純一は従兄弟だった、と麻子は思い出して軽く頷いた。
「なんていうか、本当“女性”に恵まれないというか。色々とあったようで」
「色々……」
色々と一口に言っても内容は無限大で、麻子はピンとこない。
「そんな彼を少しでも支えられたら――本心でそう思うから、今こうして純一くんの傍にいるんだけど」
経緯が具体的にわかったわけではないが、やはり敦志と純一とは深いつながりがあるのだ、と麻子はこのときに再確認した。