好きになっても、いいですか?

今、目の前にいる敦志はいつもと同じ敦志。

皺のないスーツに身を纏って、ネクタイも曲がることなくキッチリ締めて。
メガネを掛けて優しい口調で問いかけるのはなんら変わらない――昨日の彼が嘘のよう。


「だ、大丈夫です!し、仕事しますね」


麻子は昨日の敦志を思い出して、よそよそしく敦志から離れてデスクに向かおうとした。


「!!?」


背を向けた瞬間、グイッと手を掴まれた麻子は、心臓が飛び出そうなくらい驚く。


「絶対に、無理はしないで。何かあったらオレに言って」


見上げた男の人は、オフィスでは初めて見る、昨日の敦志だった。

< 210 / 445 >

この作品をシェア

pagetop