好きになっても、いいですか?
「ありがとう」
麻子は暫く静止した。
動かなかったんじゃない。動けなかった。
誰が想像できようか。
出逢いから最悪だった目の前の社長が、庶務上がりの自分に、コーヒーごときでお礼を言われるなど。
そして、確かにそう言った純一の顔を見ても、決して嫌味でもなんでもない……むしろ、少し照れたような表情とさえ窺える。
「は…………いえ」
麻子もそう答えるのが精いっぱいだった。
2人の間を流れる空気は今までにない、くすぐったい空気になっていた。