好きになっても、いいですか?
ギッ、と純一は音を立てて、椅子の肘かけに手を乗せると席を立つ。
しかし麻子を見る目は一度も逸らさずに、ずっと視線を向けたまま。
それがまるで呪縛かのように、麻子は未だにその場に足が張り付いたように動けないでいた。
純一は、デスクの横を通過し、麻子の真横へと立つ。
その距離に、麻子は必死に警鐘を鳴らす。
(―――だめ。これ以上近づいちゃ)
それでもなお、言うことの利かない声と足。
純一はそっと手を伸ばすと、麻子の一つに纏めていた髪留めを外した。
はらりと落ちる黒髪は、あの日と同じように艶めいて純一の瞳に映し出される。
そしてようやく、一語ずつだが麻子の口から言葉が聞こえてくる。