好きになっても、いいですか?
*
アパートに帰った麻子は、冷たい水で顔を洗うと、鏡に映る自分を見つめていた。
(だめ……だめ、だめだめ……だめ!)
つい少し前に起きた出来事を思い返しては、自分にそうきつく叫ぶ。
けれど、そう思えば思うほどに思惑から外れていく。
排水溝に小さな渦を作り、流れていく水を見つめて麻子は純一を思い浮かべる。
(あんなに失礼で、嫌味で、面倒くさい人!
だけど……)
『ありがとう』
麻子は、コーヒーを差し出した時のあの純一の言葉が、ふと頭をよぎった。