好きになっても、いいですか?
純一は、大抵正面玄関ではなく裏口からひっそりと外出する。
インフォメーションを通れば、当然のことだが人の出入りが多く、たくさんの人物とすれ違う。
女性が純一を見れば、必ず振り返るだろう。純一が好まないような女性達が。
その他に自社の社員。それだけではない。来客もその場にはいる。
自社の社員だから、とロクに目も見ず通過するだけなんてところを、どこの誰に見られているかわからない。
しかし、その度に煩わしい挨拶などを交わさなければならないのも、正直、純一にすると面倒でしかなかった。
確かに、麻子に初めて対面した時のような態度を誰かが見ていたのなら、評判に関わるだろう。
「どうぞ」
運転手がドアを開けて、純一に声を掛けた。
車まであと数歩と言った時に、麻子が声を上げた。
「きゃっ……!」