好きになっても、いいですか?
「昨日、私が御迷惑をお掛けしましたことは謝罪致します。しかし、その件での理由による異動でしたら、私はその命令に従いたくありません」
「庶務よりも大きい仕事が出来るんだぞ?」
「……仕事に大きいも小さいもない、と私は思ってますから」
一歩も譲らない麻子に、純一は徐々に苛立ちを感じてくる。
そしてその純一の様子は、長年側にいる敦志に手に取るように伝わっていた。
「昇給だって可能なのに?」
「申し訳ありませんが」
麻子の意思は固かった。
それは、秘書が嫌なのではなく、理不尽な社長の思いつきの異動命令だと疑わなかったからだ。
そんな社長の元で働けるほど、融通の利く性格ではないことを麻子自身もよくわかっている。
しかし、次の純一の一言で麻子の鉄壁の姿勢が一瞬崩れかける。
「金が、必要なのに?」