好きになっても、いいですか?
「浄水場の現場なんだけどねぇ。排水のシステムがよくトラブルになると……」
その映像を見て、凍りついたのは言うまでもなく麻子だ。
濁流が物凄いスピードで流れ、時折渦を巻くような個所も見受けられる。
そんな映像を目に映せば、たちまち心臓が騒ぎだす。
目を逸らそうと脳が指令しているのだが、体がそれに反応しない。
麻子の、短く、早い小さな呼吸が聞こえたのに、いち早く気付いたのは純一だ。
「――ああ。やはり、時期社長の息子さんにも名刺を渡して頂こうか。あ、申し訳ありません。準備不足で……芹沢、車に戻って、すぐに名刺を」
純一が、ポケットの名刺入れを探るフリをして麻子に指示を出した。
「――は、はい」
そうして動けなくなっていた麻子は、純一の命令によって再び足を動かせるようになった。