好きになっても、いいですか?
(おかあさんにまた、怒られる……!)
そんな思いが過って、すぐに母の元へは戻れなかった。
この時に駆け寄っていたら、良かったのに――。
のちに、そう何度も後悔する。
小さい時の麻子には何もわからなかった。
口うるさい母が、どれだけ自分を愛していてくれたのかということも。
キラキラ煌いている川は穏やかそうに見えて、奥へと足を延ばせばすぐに体をさらわれてしまうほどに激しいということも……。
麻子は草むらから、川の前で立ち止まった母の姿を見てた。
そして、麻子を呼びながら探し続けている母の視線の先には、飛ばされた白い帽子。
母に、帽子を飛ばしてしまったことがばれてしまった!と、焦る麻子の前で、信じられない光景を目の当たりにする。
「麻子っっ!!!!」
そうして次の瞬間。母は、今までとは違う緊迫感のある声で麻子を呼んで、迷わず川の中へと足を踏み入れた。