好きになっても、いいですか?

奥へ奥へと流される麦わら帽子を、母はただ、必死に追うようにして行った。


そしてまるで、麻子の視界から、魔法のように急に母の姿が水面から消えた。


5歳の麻子にはそう感じたのだ。


真実は、足を取られて、冷たい川の中に沈んだということだったのに。


麻子は、ゴツゴツとした岩場をふらふらと歩いて行く。


「麻子!あれ?お母さんは?」

「――おとう……さんっ」


(おかあさん。

ごめんなさい。

いい子でいられなくて、いいお姉ちゃんになれなくて――)



翌日、見つかった母の首元には、赤い石のついたネックレス。

それはその日から、麻子の手の中に収まった。


***
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