好きになっても、いいですか?
「俺も同じだ」
その言葉に、再び顔を上げて純一を見た。
「……え?」
「俺もあやめている。何度も」
「冗談……」
「頭の中で、母親を。それと、自分自身も殺して、今まできたんだ」
麻子の肩を掴む純一の手が熱い。
麻子は、純一がただ自分を慰めてくれているだけじゃないと分かると否定しようとする。
「あなたは私とはちがっ……」
「でも、君が現れたんだ。“芹沢麻子”という人間が」
真っ直ぐに向けられる、純一の澄んだ瞳。
そんな瞳で見つめられると、自分の中のものが音を立てて崩れて行きそうで。
(私……私だって……こんな話をした人なんて初めてで……。
そんな人が目の前に現れて……でも――)