好きになっても、いいですか?
ガチャリ、という秘書室のドアの開閉音に麻子は我に返る。
「芹沢さん!?どうかされましたか?!」
「……いえ、すみません。なんでもありませんから」
じっとりと手に汗をかいていた麻子は、差し伸べられた敦志の手をやんわりと遠慮して自力で立ってデスクへ戻った。
顔色は以前とは違うようだ、と敦志は麻子を観察する。
今しがた敦志の耳に入った、麗華からの話。
決して惑わされるような人間ではなかったはずの敦志も、麻子の前に出てしまうと感情が前に出てきてしまって冷静でいられなくなる。
「芹沢さん」
「はい?」
「……いえ、なんでもありません」
敦志は、本人にトラウマの確認などしていいものか、と、言いかけた言葉を飲み込んだ。