好きになっても、いいですか?
「おお、どうした」
麻子は静かに微笑みながら、そっと一人の男に歩み寄る。
そこは一面白の殺風景な空間で、唯一彩りを加えているのは花瓶に添えられた花。
外から来た麻子は、少し空気が重く感じて僅かに窓を開けた。
「調子はどう?……お父さん」
麻子が思い立ってやってきたのは都内の総合病院。
ここの入院病棟に父親が入っているのだ。
「ん?まあまあかな!」
「それならよかった」
「麻子こそ、仕事はどうした」
「……辞めちゃった!」
一人で起き上がるのが難しそうな父を、支えて起こして上げる。それから小さなパイプ椅子に腰を下ろした。
本当は、こんなこと言わない方がいい。心配を掛けたらまた病状が悪化するかもしれない。
でも、どうしてもたった一人の家族、父親には嘘をつけずに何でも報告してしまう。