好きになっても、いいですか?
そしてゆっくりと麗華は麻子の顔に近づくと、耳元に唇を寄せて言った。
「――お金も必要だったなら、辞めることもできないかしら?」
「!!」
それは自分の父の話だと麻子は分かると、すぐ横にある麗華の顔を凝視した。
こんなにも人のプライベートを探られることに、嫌悪感と苛立ちとが交錯し、手を力の限り握りしめた。
「……どうすれっていうの」
「そうね、辞めるか――――他の男とどうにかなるか……例えば、早乙女様とかね」
「辞めます」
麗華の頭には、ある程度のシナリオが出来ていた。
ここまで追い詰めたとしても、芹沢麻子という人間は簡単に首を縦に振るわけがないだろう。
自身の生活と、最愛の父の為にも金が必要なのだから。
それでもいい。
これをきっかけに、要は純一と距離を取って、あわよくば敦志とくっつければいいのだから。
そう仕向ける予定だった麗華だが、そのプランを見事に裏切る一言を、麻子は躊躇いなく吐いたのだ。