好きになっても、いいですか?


「――――芹沢……?」


純一のその呼び声に引き寄せられるかのように、暗がりの中その影は迷わずに純一に辿り着く。


正面からやってきたその人物は、月明かりで顔を確認される前に、目の前の純一の胸に飛び込んだ。


ふわりと鼻腔を擽るやたら甘い香りと、抱きついてきている華奢な腕は明らかに女性だ。


高いヒールでさらに背伸びをして、背中に回していた手を首へと移動させながら、ゆっくりと純一の唇へと距離を縮めていく。


「麻子……」


そんな女性に向かって『麻子』と名を呼び、純一は腰に手を回してその体を自分に引き寄せる――――。


「きゃ……っ」


が、次の瞬間、その体を物凄い勢いで突き放すと、純一は恐ろしく冷たい声で言い放った。



「なんてな」



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