好きになっても、いいですか?
暗さに目が慣れてきたこともあって、突き飛ばされて足元に座り込んだ女性が誰だか識別できてる純一は、ゆっくりと屈んでその人物の目線に合わせた。
「――――ど、どうして」
暗い中でも、大きな瞳が潤んで揺れているのがわかる。
しかし、純一にはそのような“女の武器”はまるで効果はない。
「何を企んでいる」
その声に女は、ゾクリと背筋に冷たい感覚が走る。
その威圧感になにも答えずにいると、続けて純一は言う。
「残念ながら、あいつはこんなふうに俺を誘ったりしない――――相川美月」
自分の名前を呼ばれて、美月は手に汗を握る。
蛇に睨まれた蛙のように、身動きが取れないでいた。
それは、まるで呼吸も出来ていないように錯覚すら覚える程。
「あんなメールとその靴で、この俺を騙せるとでも?」
片側の口角だけを薄ら上げて笑う純一を見て、美月はゴクリと息を飲んだ。