好きになっても、いいですか?
「本日なにか、ご予定があったのですか?」
「……就職活動ですけど」
「それは困ります」
「はぁ?」
運転手つきの社長専用と思われる車に、麻子は敦志と並んで座っていた。
麻子は納得がいかない顔で、外の流れる景色を見ながら無愛想に敦志の言うことに答えていた。が、敦志の『困る』という発言に、視線を外から車内に変えた。
「困る、って……なんで」
「あなたはまだ、わが社の社員のままだからです」
「……なに?離職するにもハンコが必要なわけ?」
「いえ、雇用は継続です」
噛み合っているようで噛み合っていない、そんなキャッチボールを何度か交わしているうちに、昨日最後だと思っていたはずのビルが目の前にあった。
「さぁ、参りましょうか」
いつの間にか外に出て、車のドアに手を掛ける敦志に、渋々麻子は車を降りた。