好きになっても、いいですか?
「――――え?」
克己の言葉に驚いた麻子は、さらに目を丸くした。
その言葉は、自分の今までの人生そのものを表わす言葉。
常に自分の心に言い聞かせていた言葉だったから。
「お前は今までそうして生きてきたんだろう?」
克己は妻を亡くした後、麻子をずっと見てきた。
だからわかる。自分の娘がもがき苦しんで、一人、必要のない十字架を背負ってここまできたことを。
「そろそろもう、自身の意思で幸せになるべきだ」
それは父の願いでもあり、母の願いだった。
“幸せ”を掴むには、麻子自身がその意志の元で掴まなければ意味がないことを克己は知っているから。
だから、麻子にそう言った。
「……」
それでも麻子の中から、“でも”、という気持ちが拭いきれない。