好きになっても、いいですか?
「母さんは、幸せだ、と笑う麻子を見たいんだよ。そんな顔じゃなくてな。せっかくのルビーも台無しだ」
克己は、麻子の胸元に光るネックレスを指さしてそう言った。
麻子はそのネックレスを手にとって見つめると、ぎゅっと握った。
「母さんは、麻子が大きくなったら元々それを譲るんだ、と楽しみにしていたんだ。どんな笑顔で受け取ってくれるかってな」
「――え」
「だから、ちゃんと母さんはそれを失くさずに麻子に譲ったんだろう」
久しぶりに胸に、目に、熱いものが込み上げてくる。
麻子はネックレスを掴んだ手を、そのまま口元に充てて声を押し殺して泣いた。
「……だから。母さんは笑って欲しいんだ、って言ってるだろう?泣くな、麻子。笑え」
克己の手はどんなに細く、頼りないものになっていてもやっぱり父の手で。
大きく温かな手に何度も頭を撫でられると、麻子は子供に戻ったかのように止めどなく涙を流した。