好きになっても、いいですか?
「――ちっ」
純一はIDカードを持って駆けだした。
「あのッ……でももう、大分時間経ってますよ!」
清掃員の声も届かないくらいに、純一はとにかく今ある手掛かりから、どうにか麻子に辿り着こうと必死だった。
廊下を走り、エレベーター前の角を曲がろうとした時だった。
「わっ!」
「っ!!!」
誰かとぶつかり、純一は跳ね返るようにして尻もちをついた。
フロアに投げ出されたのは、麻子のIDカードと黒縁の眼鏡。
「――社長!……これは!」
ぶつかった相手を先に識別して声をあげたのは敦志。
敦志は自分の眼鏡よりも先に、ちょうど手元に落ちていたIDカードに目が行った。