好きになっても、いいですか?
麻子は純一に言われるがまま、病院の中庭へとついて行った。
その間、お互いに終始無言で。
中庭に着くと、既に暗くなっている屋外には人一人見えなかった。
そんな中庭のベンチに、純一が先に腰を下ろした。
麻子は純一の前に両手を前に組んだまま立つ。
「……きちんと、退職の旨を伝えなかったことは申し訳ありません」
第一声は、麻子の余所余所しい言葉だった。
「アレは君が書いたものではないだろう」
「……でも、意志はそれと同じですから」
辞表を思い出した麻子はそう答える。
もう、会わない。
その代わりに一度だけ、と触れた人が再び目の前にいる。
本当に、出逢った頃から突き放しても、突き放しても追ってくる。
「麻子」
純一がベンチから麻子を見上げて呼んだ。