好きになっても、いいですか?

ずっと俯いたままの麻子の顔を純一の両手が包むと、初めて麻子の瞳に純一が映った。


「この涙は、俺を好きだからだと思っても?」


今更、面と向かってそんなことを恥ずかしげもなくいう純一に、麻子は唇を噛んで何も答えなかった。
しかし、純一は引くこともせずに問い詰める。


「言え」


元々俺様気質の純一がここで出てくるとは……そう麻子は感じながら、それでもその命に従うように小さく口を開いた。


「……でも、雪乃さんが」
「雪乃ちゃんが“婚約者”だから、か――」
「――――」
「でも、それは俺じゃない」
「――え…………?」


その純一の言葉は、麻子の今までの人生の中で、一番虚をつかれた瞬間だった。


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