好きになっても、いいですか?
「え?“俺じゃない”……って……」
麻子は、一体どういう意味なのか全然理解出来ず、放心状態になる。
「お前が言う“罪”というやつが、もしも、雪乃ちゃんに対しての罪悪感なら。それは、感じる必要がない、ということだ」
「必要が……ない?」
未だにその意味を理解しない麻子に、純一は少し苛立った。片方の手を麻子の顎に添えて、強引に顔を上げさせる。
「モノわかりがいいはずなのに、こういう時だけ鈍い」
至近距離で見つめ合う麻子の目は、ずっと見開いたまま。瞬きすら出来ずにいた。
純一はそんな麻子の表情を見るのは初めてで、ふっと声を漏らして呆れるように小さく笑った。
「誰が、いつ、雪乃ちゃんが俺の婚約者だと言った?彼女の婚約者は――俺の弟だ」
「お、弟??!」
「そうだ。ああ、言ってなかったか?俺に弟が一人いると言うことを」
先程の呆然とした表情に続いて、今度は今まで聞いたことないような素っ頓狂な麻子の声が中庭に響く。