好きになっても、いいですか?
15階へ向かうエレベーターの中で、麻子は敦志の背中を見つめて気まずい思いを抱えていた。
あれだけ力になりたい、と言っていてくれていたのは、おそらく上司以上の気持ちがあることは気付いていた。
でも、結局は麻子はそれを受け入れられない。
そして、その理由は身近な存在にあるのだから。
ポーンと音が響いて敦志に「どうぞ」と譲られた麻子は、先にエレベーターを降りた。
「……やはり、あなたが変えましたね」
「え?」
「いえ。社長が首を長くしてお待ちですよ」
「……」
敦志の伏し目がちの微笑みが少し胸を痛めたけれど、そのまま麻子は敦志から目を逸らさずにいた。
「いっそ奪う――――なんていう性格だったら良かったな」
敦志は外へと顔を向けてそう言った。
眼鏡が反射して瞳は見えなかったけれど、その声にはどこか吹っ切れたようなものを感じた。