好きになっても、いいですか?
「いきなり異動を命じられて……。さらには、こんなことになってしまって、芹沢さんには本当負担がかかり、申し訳ないです」
「いえ、早乙女さんのせいではないでしょう?」
「……10月には、新しく人を入れると思いますから」
敦志は、話しながらデスクの書類を手にする。
バサバサとその無類の紙を手にしていたが、急にぴたりと手を止めて視線もそのまま一点を見据えていた。
「……早乙女さん?」
麻子が不思議そうに、首を傾げて敦志を見た。
その声に反応して、敦志は顔を上げて麻子と向き合う。
「芹沢さんは、やっぱり純一くんなんですね」
「え?!」
「いや、責めている訳じゃなく……勿論、悔しい気持ちもあるけどね」
ふっ、と力なく笑う敦志に麻子はどう声を掛けていいかわからない。ただ、その場に立っているだけ。
敦志は、いつものように、人差し指で眼鏡を押し上げながら続けた。
「でも、元々それを望んだのもオレだから」
「?」
「彼を変えて欲しいと願ったのは自分。ただ、その後、その自分がこんな想いになることが誤算だった」