好きになっても、いいですか?
「ごめんなさい――――でも、私を変えてくれたのも、あの人なんです。だから」
やっと言葉を出せた麻子は、しっかりと敦志を見据えて話す。
それは、やはり根本的に芯が強いという麻子の性格を表わしていて。そんなふうに真摯に受け止め、応えてくれる態度が、敦志には救いだった。
「そう。ただそれだけ。オレには貴女を変えてあげられなかった。だから貴女は悪くないし、誰も悪くないとオレは思ってる」
ニコッ、といつもの柔らかい微笑みを浮かべて敦志が言う。
再び書類を手にした敦志が仕事に戻ると思えば、少し考えるようにして、一度横を向けたはずの体を、また麻子に向けた。
その視線は、麻子を捕えた後、焦点がそれよりも後ろに向けられる。
「……ああ。でも、暫くオレも望みを捨てずにいようかな。人生何があるかわからないしね」
「えっ……」
そんな宣言を耳にして麻子は動揺するが、それに一番反応したのは――。
「何があるっていうんだ」
「くくっ……さぁ。純一くん次第じゃない?」
声を押し殺すようにして、笑っている敦志を睨むように見ていたのは、いつの間にかドアを開けて来ていた純一だった。