好きになっても、いいですか?
Epiloge:kiss-××


「失礼します」


21時を回った頃、麻子は純一に言われたとおり、帰社する前に少し時間を割いて社長室へとやってきた。


「ああ。芹沢さんのこともあるのに、急な残業済まない」
「……いえ。父はきっと大丈夫ですし、むしろ、それが私のすべきことですから」
「もしかして、“貸し”のことを言ってるのか?」
「必ずお返しする、と何度も伝えていると思いますが」


オフィス内とは言え、今は二人きり。

それでも麻子の姿勢は常に秘書であり、それは出逢った時と変わらない凛とした態度で。
それには純一も失笑する。


「全く……」
「“可愛くない”のは自分でもわかってるつもりですから」


純一の言葉の先を読んで麻子が言うと、純一はギッと椅子の音を立ててゆっくりと立ちあがった。


「いや、わかってないな」


そして麻子の前へと歩いてくると、スッと手を伸ばす。


< 440 / 445 >

この作品をシェア

pagetop