好きになっても、いいですか?
「社長」
「敦志、朝からお疲れ様だったな」
「いえ……。それよりも昨日からのお話ですが」
いつもはデスクの前あたりで会話をするのに、今は椅子に腰を掛けている純一の真横まで近づいて声を低くする。
「ああ、芹沢克己――――か」
「はい。どうしても、受け取らない、と。その代わりに、と昨日お話しましたが――」
「……そういうのは性に合わないんだけどな」
純一が席を立って、窓の外を眺めながら敦志に答えた。
敦志は少し動いた回転式の椅子に視線を向けて、その流れでデスクの上を見るとそこには小切手が残されたままだった。
「どうしますか?」
「俺は契約だけは破らない男だ」
「それは承知しておりますが」
「……なんとか、する」
そう言って純一はくるりと向きを変えると、デスクの上の小切手を内ポケットにしまった。