好きになっても、いいですか?
麻子がそう言って指をさす。
それは、一つの本棚がもうじき読み終える程の位置を指していて、敦志はまた驚愕する。
(ということは、100冊近くを約3時間で……!)
敦志と向き合っている麻子はそんな敦志の思考を知る由もなく、敦志の言葉をただ待っていた。
「速読でも、習得してるんですか――?」
「そ、速読?そんな大層なことは……!独学と言うか、自然と早く読めるようになっただけです。一字一句覚えてるわけじゃないですし」
「学生の頃から……ですか」
「――大学の頃から、ですかね。
1秒も無駄に出来ない……ただ、そう思っただけなんです」
麻子の父が倒れたのは、麻子が大学1年の頃。
一時は中退することを迷っていたが、一命を取り留めた父に説得されて卒業を目指した。
そんな麻子は、バイトをしながらの学生生活を余儀無くされた。が、せっかく大学にいるのだから、と目一杯学べるだけ学ぼうと、多忙を極める生活だった。
そんな生活から、麻子は群を抜く集中力と記憶力を培ってきた。