好きになっても、いいですか?

唯一、そういったことがない人間が敦志だった。

彼は、実は純一の親族で従兄弟にあたる。
母の妹の息子だ。

敦志と敦志の母だけは……二人“だけ”、が心優しく純一を受け入れてくれる――唯一無二の存在だった。

純一が社長に就任した時には、真っ先に敦志に秘書として付くように持ち掛けた。
駆け引きばかりの毎日に、一人でもそんなことが必要ない、顔色を窺わなくていい気を許せる人間を、と。

純一が床一点を見つめ微動だにしないことに、整頓し終えた麻子が気がついた。

少し不思議に思いながらも、余計な詮索をせず、スッと立ち上がり、純一の元へと近づいた。


「終わりました」
「あっ、ああ……ご苦労様。今日はもう」
「社長。失礼ですが、お食事は?」
「はっ……?」


まさか、麻子が自分を食事に誘うはずもない。
では今の質問はなんなんだ、と純一は気の抜けた声を出してしまう。

麻子が相手だと、純一もどうもやりづらい。


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