好きになっても、いいですか?
「私の知る限りですと、ランチもコーヒーだけでした」
「ああ、時間が無いときはいつものことだ。じゃあ、俺はまだ仕事がある。先に帰っていい」
「……失礼します」
純一が再び仕事に戻りつつ、麻子に上がっていいと指示を出すと、麻子は控えめにお辞儀をして社長室を去っていった。
「……“金”に惑わされない女、か」
麻子が去った扉を見て、純一が呟いた。
自分に近付いてくる女は、皆と言っていいほど金目当て。もしくは百歩譲って容姿がいい為、という理由もあるかもしれない。
そんな女性遍歴は、純一の中での“女”という生き物全てが同じような、計算高い薄汚れたものだと確立してしまう。
一番の身近な存在、自分の母親がそうであるように――。
純一がキーボードから手をおろし、ギシッと音をたてて大きな椅子から立ち上がった。
窓から外を見ると、街の灯りが無数に点在していて、自分の存在がちっぽけに感じる。
反射して見える自分の顔を見て、時折思うこと。
“自分の存在価値は――?”
誰か自分を、肩書きも何もかも取っ払った、“藤堂純一”というただ一人の男として、必要だと言ってくれる人間がいるだろうか――。
純一が、そんな自虐的な気持ちになっていた時だった。