好きになっても、いいですか?
「…………」
その頃隣の社長室では、純一がそっ、と先程渡された麻子からの『朝食に』というスープを口にしていた。
ワインレッドの保温ボトルには、細かに刻まれた野菜が数種類浮かんでいた。ベースはどうやらトマトらしい。
それを片手で口に運ぶと、空いた方の手で報告書を取り、文字を目で追う。
普通の野菜スープよりも細かに刻まれているであろう野菜はやはり、おそらくはスプーンなどを使用しなくてもいいようにだろう。
最近の保温性は優れたもので、なかなかまだ熱を維持していて。冷ましながらゆっくりと口に入れるスープは、心地よく胃を温めてくれる。
「誰かの手料理なんて、久しぶりだ」
誰もいない部屋で純一はそう言うと、無意識に、残りのスープを大事そうに傾けながらたいらげた。
最後に温かい手料理を食べたのはいつ頃だったか―――そう遠くを見つめながら。