好きになっても、いいですか?
「それでは。少々社長の所へ打ち合わせに行ってきますので」
敦志が麻子を一人にして、再び社長室へ消えると、麻子は昨日の続きの資料を手に取り敦志の言葉を思い返していた。
『今、副社長の席が空席のままです。
特に支障はありませんが、社長が何かあれば、代わりに動いて頂きたい椅子なんですが。
加えて、丁度、もう一人いた秘書が退職しました。
なので、秘書の欠員補充はしてもしなくても実際は今のところ問題ないのですが……。私はいつか、その副社長という空席が埋まるのであれば、遅かれ早かれもう一人秘書が必要になる。その為に、すぐにでも一人補充するよう意見したんです。
だけど社長はそれを、頑なに“必要ない”と言って却下されたばかりだったんです。
貴女に会う直前まで――』
敦志がそんな嘘を言うようには思えない。
けれど、だからってなんで自分が。
(私は何も特別なことをしていないし、一般人もいいとこなんだけど)
要はそんなことを言っていた純一の考えを、いとも簡単にあっさり覆し、さらには手土産や食事の件などで意見に従わせてしまう麻子に、なにやら敦志は期待をしているようだった。