好きになっても、いいですか?
「いや、失礼しました。あの藤堂社長を前にして笑うだなんて」
「いえ……」
「名だけ聞いていた時の想像とは、やはり違った人のようだ」
「それはどういう……」
克己は変わらず笑って、手元に伏せていた本を閉じた。それを横のテーブルに置くと、動かない体を目一杯前に倒して、純一に礼をする。
「なかなか暴れ馬の娘ですが、どうぞよろしくお願いします」
「は……い」
最後まで理解できなかった。
敦志が克己と何を話し合ったのか、克己がなぜ自分を呼んだのか。
金をせびられることだってない。
そして、特にこれといって込み入った話もせずに、ただ、娘をよろしくと頼まれる。
果たして何が起きているのか。
しかしここは病院で、相手は重病患者。
さらには純一自身も、時間に限りがある。
色々と追求したい気持ちを抑えて純一は病室を後にし、タクシーに乗り込んだ。